この常夜燈は、本来、左右一対ですが、完形で現存するのは一基のみで、もう一基は残存している石材を積み上げて往時をしのばせています。寸法は、高さ3.45m余、幅・奥行ともに1.26mです。
材質は、安山岩ですが、火袋には花崗岩が、基礎にも新しい石材が使用され、ともに後世に補われたものです。
装飾は、火袋の左面に月(三日月)、右側面に日輪の形が施されており、中台には祭神菅原道真にちなんだ梅鉢の文様が付いています。
銘文は、竿に「常夜燈」(正面)・「奉納」(左側面)・「別当常全代」(背面)・「嘉永五王子年閏二月吉祥日」(右側面)とあります。また。基壇にも、「雲龍堂」(三段目の正面)とあるほか、二段目及び三段目全体に世話人・発起人をはじめ「雲龍堂充國門弟」・「龍海堂門弟」・「充國門弟」の肩書をもつ多数の人名があり、嘉永5年(1852)閏2月にこれらの人々により奉納されています。
雲龍堂と龍海堂は区内にあった寺子屋です。雲龍堂は、文政年間から文久年間(1818~1864)まで麹町8丁目(現在の麹町5丁目)にあり、町人の光國が教師となり、生徒数は250名(男150名・女100名)でした。龍海堂は、文化元年(1804)松田町(現在の鍛冶町2丁目)に開業し、町人の布施タキが教師となり読み書き・算術・活花を教え、生徒数は160名(男55名・女105名)でした。
なお、嘉永5年(1852)は菅原道真公の950遠忌であり、当社でも2月25日から4月5日まで開帳が行なわれ、御真筆・御影・神宝が公開され、作庭が3ケ所、発句連の句会開催、境内では曲馬・手妻・鉄割りなど興行も行われました。また、境内には、この開帳にあわせて作製・奉納されたと考えられる石造物が3件あります。(狛犬〔再建〕・百度石・筆塚)。
この常夜燈は、区内の寺子屋とその関係者の天神社に対する信仰の様子を物語るものです。
千代田区指定有形民俗文化財 常夜燈 一基 指定 平成17年4月指定