百度石とは、百度参りを行うために使用される石標で、百度参りが行われる神社が境内に立て、そこから往復参拝するよう目印としたものです。百度参りは、個人的な心願のため特定の神社に百度参詣を行うことで、最初は百日間にわたり毎日参詣する形でしたが、のちには一日のうちに百度参詣する形に変化したといわれます。ただし、この百度石の場合は、背面に奉納者と思われる多数の人名がありますので、何らかの結願の結果として建立・奉納されたと思われます。
この百度石は、銘文から、高橋丈鯉が制作したものを、嘉永五年(1852)二月に鮫ヶ橋の岸岡仙太郎ら67名が奉納したものです。奉納者67名は、①鮫ヶ橋など地名を肩書きに持つもの、②松浦藩・永井藩・本郷藩・片桐藩という藩名を肩書きに持つもの、③肩書きがなく名前だけのものが混在しています。奉納者は地縁的な繋がりは考えにくいため、学問上の繋がりの中で奉納したとも思われ、平河天満宮と、周辺の町や人々との関わりを考えることができます。
奉納された嘉永五年(1852)は、菅原道真公の950年遠忌にあたり、江戸市中でも平河天神のほか亀戸天神・牛天神で開帳が各60日行われています。平河天神では、嘉永三年(1850)の火災による修復入用を賄うために別当龍眼寺が出願し、2月25日から4月5日まで開帳が行われ、御真筆・御影・神宝が公開され、作庭が3ヶ所、発句連の句会が開催され、境内では曲馬・手妻・鉄割りなど興行も行われ、百度石の他にも、狛犬・常夜燈・筆塚の3件がこの開帳に合わせて奉納されています。
平成16年3月 千代田区教育委員会